大阪高等裁判所 平成11年(ネ)1838号 判決
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は控訴人に対し、金六七〇〇万円及びこれに対する平成六年一二月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
四 この判決は仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
主文同旨。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張
一 原判決の引用、補正
1 引用
当事者の主張は、次の二のとおり附加する外、原判決第二「事案の概要」欄(二頁八行目から一四頁三行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
2 補正
ただし、次のとおり補正する。
(一) 原判決三頁四行目の「約二〇〇名」を「一八〇から二〇〇名」と改める。
(二) 同頁五行目の「その代表取締役」から同頁六行目末尾までを「その代表取締役は平成一二年五月まで茶屋勲(以下、茶屋という)であった。」と改める。
(三) 同四頁九行目の「平成二年六月二六日」を「平成二年」と改める。
(四) 同六頁末行目の「平成五年二月一日」を「平成五年三月二五日」と改める。
(五) 同七頁一行目の「六一四回」を「五六六回」と改める。
(六) 同頁同行目の「一〇五億七六五二円」を「一〇七億二五七〇万五〇九五円」と改める。
(七) 同頁一、二行目の「三億三二〇七万四二七三円」を「二億四七四〇万〇六五四円(これに借入利息四一二五万二一〇五円を加算すると、二億八八六五万二七五九円となる)」と改める。
二 当審附加主張
1 控訴人
本件取引は、被控訴人による口座支配による違法な過当取引(チャーニング)であり、被控訴人は、債務不履行ないし不法行為(使用者責任)による損害賠償責任を免れない。その理由は、以下のとおりである。
(一) 取引の過度性
(1) 本件取引の金額、回数
本件取引は、買付総額が五四億八一七六万七八二七円、売却総額が五二億四三九三万七二六八円、売買合計額が一〇七億二五七〇万五〇九五円に達する。総取引回数は五六六回に及ぶ。特に、次のとおり、平成三年、平成四年の取引が過度である。
イ 平成三年
買付額が三六億六三四一万円、売却額が三三億七〇九五万円、売買合計額が七〇億三四三六万円。
ロ 平成四年
買付額が一三億八五六五万円、売却額が一四億八三九三万円、売買合計額が二八億六九五八万円。
(2)年次回転率
本件取引の平成三年、四年の年次回転率は、次のイ、ロのとおりである。次のロの方が正確な実体を表している。ロの年次回転率が四回を超えると過当取引の存在が推定され、六回を超えると過当取引の事実が決定的であるといわれている。
イ 加重投資残高平均
平成三年が8.08、平成四年が3.80。
ロ 純投資残高平均
平成三年が11.68、平成四年が6.48
(二) 口座支配(取引の主導性)
本件取引は、被控訴人京都支店の担当者(A、B、C)が、控訴人代表者(茶屋勲社長)からの一任を受けてなしたものであり、被控訴人が口座支配をし、取引を主導していたものである。これは、茶屋社長が海外出張やゴルフ等で不在の日も、本件取引が繰り返されていることからも明らかである。
(三) 悪意性(欺罔の意図)
(1) 被控訴人担当者(A、B、C)は、茶屋社長から証券取引の一任を受けていることを濫用し、控訴人の利益を害してでも、被控訴人の手数料稼ぎを優先して、頻繁に不必要な本件取引を行ったものである。同担当者は、売買代金額が少ない方が手数料率が高率になることに目をつけ、ことさらに同一銘柄を数回に分散して売買してもいる。
(2) 被控訴人の悪意性は、次のとおり、被控訴人が本件取引により得た巨額な利益、控訴人が本件取引により被った莫大な損失からも裏付けられる。
イ 被控訴人が本件取引により得た利益は、手数料収入六四一一万八八七七円に、ワラント売買益が加算される。
ロ 控訴人が本件取引により被った損失は、次の(イ)(ロ)の合計二億四七四〇万〇六五四円に、借入金利息(四一〇〇万円以上)を加えた額である。
(イ) 売買差損 一億三九一三万五一九七円。
(ロ) 経費合計 一億〇八二六万五四五七円。
2 被控訴人
本件取引は、被控訴人による口座支配による違法な過当取引(チャーニング)ではない。その理由は、以下のとおりである。
(一) 取引の過度性の欠如
(1) 本件取引は、買付総額が五四億三五〇三万九六五一円、売却総額が五二億〇二九四万八七九五円、売買合計額が一〇六億三七九八万八四四六円、総取引回数は四〇二回である。
(2) 本件取引の平成三年、四年の年次回転率は、次のとおりである。
イ 加重投資残高平均
平成三年が8.90、平成四年が3.94。
ロ 純投資残高平均
平成三年が6.79、平成四年が1.90。
(3) 取引の過度性は、売買回転率だけで判断できるものではない。控訴人の規模、資金量、茶屋社長の投資知識、経験、茶屋社長の短期売買指向を総合して判断すべきである。そうすると、本件程度の取引回数、回転率の取引では、過当取引として違法性を有するものではない。
(二) 口座支配(取引の主導性)の欠如
本件取引は、その全てについて、被控訴人担当者(A、B、C)が事前に訪問あるいは電話し、控訴人(茶屋社長)から個別、具体的な注文、承諾を得ている。
茶屋社長の海外出張に際しては、担当者が国際電話をかけたこともあるし、茶屋社長から国際電話がかかってきたこともある。茶屋社長のゴルフに際しては、担当者が茶屋社長乗車の自動車に電話をかけたり、ゴルフ場に伝言を依頼して、茶屋社長に電話してもらったりしていた。
さらに、新発のワラントや公募株、公開株等といった新発物については、茶屋社長から、実際の買付執行の何日か前に買付注文を受け、売却可能日になれば即売却するとの注文を受けていた。
(三) 悪意性(欺罔の意図)の欠如
被控訴人担当者は、茶屋社長の基本方針である短期売買指向に基づいて、控訴人の利益となることを第一に考え、証券取引の勧誘、助言を行ってきた。同一約定日に同一銘柄を数回に分散して取引した場合でも、手数料計算においては、一回に取引した場合と同様な取扱をしている。被控訴人担当者は、市場のインパクトを考慮して、同一日に分散して取引することもあった。
このように、被控訴人に悪意性(欺罔の意図)がなかったことが明らかである。
理由
第一 前提事実
証拠(甲一六、乙一、乙二、乙四ないし二六、証人A、証人B、控訴人前代表者茶屋勲本人)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
一 当事者
1 控訴人は、電気製品の製造、販売を目的とする会社であり、本件取引当時は代表取締役社長が茶屋勲であった。茶屋勲は、平成一二年五月、控訴人会社の代表取締役社長を辞任した。本件取引は、すべて茶屋社長からの注文(個別具体的な注文によるか、一任取引によるかは後に認定する)によるものであった。
2 被控訴人は有価証券取引の問屋業を営む株式会社であり、本件取引は被控訴人京都支店を通じて行われた。本件取引の被控訴人側の担当者と担当期間は、次のとおりであった。
(一) A営業課社員 平成二年一月から平成三年五月まで。
(二) B営業課長 平成三年六月から平成四年五月まで。
(三) C営業課長 平成四年六月から平成五年二月まで。
二 本件取引の経過
1 取引の開始
(一) 茶屋社長は、A社員から勧誘されて、被控訴人京都支店を通じて、次のとおり証券取引を始めた。
(1) 平成元年一月一八日から茶屋社長の個人取引。
(2) 平成二年一月一八日から控訴人の現物取引(別紙売買目録二)。
(3) 平成三年二月一三日から控訴人の信用取引(別紙売買目録三)。
(二) 控訴人は、平成二年一一月二七日以降、被控訴人京都支店を通じて、本格的な証券取引(現物取引)を始めた(別紙売買目録二のNo.2の銘柄二段目ハマダ印刷機以下、別紙四の番号11ハマダ印刷機以下参照)。
控訴人は、平成三年二月一三日以降、被控訴人京都支店を通じて信用取引も始めるようになり、同京都支店を通じての証券取引の頻度が激増した(別紙売買目録三のNo.1の銘柄一段目以下、別紙四の番号33(信用)任天堂以下参照)。
2 取引の終了
控訴人の被控訴人京都支店を通じての取引の最終日は次のとおりである。
(一) 現物取引
買付取引の最終日は、平成四年八月一三日である(別紙売買目録二のNo.8の銘柄六段目北野建設、別紙四の番号503北野建設)。売却取引の最終日は、平成五年一月二九日である(別紙売買目録二のNo.1の売付欄一一段目、別紙四の番号561シャープ)。
なお、控訴人は、平成三年八月二三日、被控訴人大津支店で買い付けた業種別Ⅰセレクトファンドの扱店を被控訴人京都支店に変更し、平成五年三月二五日、同京都支店を通じて同ファンドを売却している(別紙売買目録二のNo.6の二段目)。したがって、控訴人の被控訴人京都支店を通じての取引の最終日は、右平成五年三月二五日というのが正確であろう。
(二) 信用取引
新規取引の最終日は、平成四年九月二八日である(別紙売買目録三のNo.16の一〇、一一段目、別紙四の番号548日本配合飼料)。清算取引(反対売買)の最終日は、平成五年二月一日である(別紙売買目録三のNo.16の一〇ないし一三段目日本配合飼料、住友金属鉱山、別紙四の番号564ないし567日本配合飼料、住友金属鉱山)。
3 まとめ
以上のとおり、控訴人が被控訴人京都支店を通じて行った証券取引(本件取引)は、平成二年一月一八日から平成五年三月二五日までの取引である。そのうち、別紙売買目録二記載の取引が現物取引であり、別紙売買目録三記載の取引が信用取引である。本件取引を時系列順に整理したのが別紙四である。
そして、本件取引が特に頻繁になされた時期は、平成三年二月一三日(信用取引の新規開始日)から平成四年九月二八日(信用取引の新規終了日)までである(別紙四の番号33から548までの取引)。
第二 本件取引の違法性の検討
一 過当取引(チャーニング)の違法性
1 一般に証券取引は、投資者の責任と判断により行うべきであるが、証券の価格変動要因は極めて複雑であり、その投資判断には高度の証券投資に関する知識、情報収集、分析能力等を要する。そのため、一般投資家が証券取引をするに当たっては、証券取引の専門家である証券会社の勧誘ないし助言、指導に依存して同取引を行うのが通例である。
2 他方、証券会社は、証券取引の専門家であり、必要な知識、経験、資料、情報収集、分析能力を有する者として、免許を受け業として証券取引を行っている。しかも、証券会社は、一般投資家を証券取引に誘引することによって収益を得ており、その取引頻度や取引金額が多いほど自己の収益が多くなるので、顧客を過当な取引に誘う危険を内在している。
3 したがって、証券会社が、顧客の取引口座に対して支配を及ぼして、顧客の信頼を濫用し、顧客の利益を犠牲にして手数料稼ぎ等の自己の利益を図るために、顧客の資産状況、投資目的、投資傾向、投資知識、経験に照らして過当な頻度、数量の証券取引の勧誘をすることは、顧客に対する誠実義務に違反する詐欺的、背任的行為として、私法上も違法と評価すべきである。
4 そこで、本件取引が違法な過当取引(チャーニング)に該当するかどうかを判断するために、以下、取引の過度性、口座支配(証券会社の取引の主導性―コントロール)、悪意性(欺罔の意図)の各要件を検討する。
二 取引の過度性
1 事実の認定
証拠(甲一六、甲一四七、甲一四九ないし一五二、甲一五八、乙一、乙二、控訴人前代表者茶屋勲本人)、及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(一) 控訴人及び茶屋社長と証券取引
(1) 茶屋社長
茶屋社長(昭和一三年一月生)は、昭和四〇年代から証券取引の経験があり、本件取引までに、被控訴人大津支店、勧角証券、山一証券での証券取引の経験があった。その取引内容も、信用取引のほか、オプション取引を行った経験もあり、証券取引に関して知識、経験が豊富であった。
しかし、茶屋社長は、本件取引当時、控訴人会社の社長として超多忙な毎日を過ごしており、国内出張、外国出張、ゴルフ、得意先との会合等で会社には不在の日も多かった。しかも、控訴人には、証券取引を専属に行う知識、経験を備えた従業員などはいなかった。
ところが、本件取引は、百二十数銘柄にも及ぶ証券取引であり、その内容も株式の現物取引、同信用取引、転換社債取引、投資信託取引、ワラント取引等の多種多様な取引である。茶屋社長には、本件取引のように、多種多用で複雑な証券取引に積極的に関与し、短期取引を多数回行うことができるほどの時間的余裕や、洗練された証券知識、経験まではなかった。
(2) 控訴人会社
控訴人は、本件取引当時、電気製品(IC等の生産機器、医療機器等)の製造、販売を目的とし、資本金四七七五万円、従業員一八〇名から二〇〇名を擁する株式会社であり、毎年数億円の営業利益をあげていた。
しかし、本件取引の規模は、別紙五の買付額欄、売付額欄記載のとおりであり、その売買総合計額は一〇六億円余にも達していた。そのため、その投資資金は控訴人の余剰資金で賄われていたものではなく、全額借入金によるものであった。その平均金利は、平成三年が8.25パーセント、平成四年が5.37パーセント、平成五年が4.50パーセントであった。
(二) 取引金額、回数等
(1) 取引金額
本件取引は、買付総額が五四億円余、売却総額が五二億円余、売買総合計が一〇六億円余に達する。特に、次のとおり、平成三年、平成四年の取引が過度であった(別紙五参照)。
イ 平成三年
買付額が三六億円余、売却額が三三億円余、売買合計額が六九億円余。
ロ 平成四年
買付額が一三億円余、売却額が一五億円余、売買合計額が二九億円余。
(2) 取引回数
イ 本件取引の回数は五六三回である。別紙四の番号1、2、132、339、399、498が欠番であり、番号111―1を二回分追加するので、取引回数は五六三回(567−6+2)となる。
ロ そして、次の各取引は一回の取引として数えるのが相当であるから、本件取引の総回数は被控訴人主張のとおり四〇二回となる。
(イ) 同一の銘柄であること。
(ロ) 買付又は売却同士であること。
(ハ) 同一の取引種類(信用/現物の別)であること。
(ニ) 同一の約定日であること。
ハ 本件取引が特に頻繁になされた時期は、平成三年二月一三日(信用取引の新規開始日、別紙四の番号43)から平成四年九月二八日(信用取引の新規終了日、別紙四の番号548)までである。
その間の取引回数は、前示ロの数え方に従うと三六三回となる(四〇二回〔総回数〕−二七回〔当初の頻繁取引でない分〕−一二回〔末期の頻繁取引でない分〕)。控訴人は、一年七か月半(19.5か月)の間に、実質三六三回の証券取引をしており、一月当たり18.61回の割合による取引をしている。
二 本件取引の売買総額は一〇六億円余で、総取引回数は四〇二回であるから、一回当たりの取引金額は二六〇〇万円余である。控訴人は、平成三年二月一三日から平成四年九月二八日にかけて、一回当たり二六〇〇万円余もの高額取引を一か月当たり一八回余もしていたのである。証券取引所は土日、年末年始は閉鎖されているので、控訴人は、平日はほぼ毎日のように高額の証券取引をしていた勘定になる。
(三) 年次回転率
(1) 年次回転率の意義
年次回転率とは、一年間における投資資金の回転率を示すものであり、買付総額を顧客の平均投資額で除し、それを年ベースに換算することにより算出するものである。
加重投資は、信用取引において売買された額(名目上の売買代金額)をそのまま投資額とするものである。純投資額は、信用取引において実際に動いた金額(保証金額、通常は名目金額の三割)を投資額とするものである。
信用取引が含まれる場合でも、その取引の過度性を判断するうえでは、信用取引で売買された額(名目上の売買代金額)をそのまま投資額とし、当該投資額が一年間に何回売買されているか(回転しているか)、すなわち加重投資残高により算出した年次回転率を基準とするのが相当である。それ故、本件では、加重投資残高による年次回転率を検討する。
(2) 本件取引の年次回転率
当事者主張の本件取引の加重投資残高による年次回転率は、平成三年が8.90(被控訴人主張)、8.08(控訴人主張)、平成四年が3.94(被控訴人主張)、3.80(控訴人主張)である。ところが、本件取引が特に頻繁になされた時期は、平成三年二月一三日(信用取引の新規開始日)から平成四年九月二八日(信用取引の新規終了日)までであるから、その間の年次回転率が特に問題となる。
ところで、平成三年の年次回転率8.90、8.08は平成三年一月一日から一二月三一日までが対象であるから、平成三年二月一三日(信用取引に新規開始日)から一二月三一日までの年次回転率はそれよりも多くなる。平成四年の年次回転率3.94、3.80は平成四年一月一日から一二月三一日までが対象であるから、平成四年一月一日から平成四年九月二八日(信用取引の新規終了日)までの年次回転率もそれよりも多くなる。
したがって、本件取引が特に頻繁になされた平成三年二月一三日から平成四年九月二八日までの加重投資残高による年次回転率は、控えめにみて、被控訴人主張の数値より低い控訴人主張の年次回転率によっても、別紙七計算書のとおり6.8となる。すなわち、本件取引では、平成三年二月一三日から平成四年九月二八日までの間に、一年間に換算して、加重投資残高による平均投資額が6.8回売買されている(回転している)ことになる。
(四) 期間別売買分布
本件取引の期間別売買分布は別紙六のとおりである(控訴人の平成一一年一二月二七日付準備書面添付の別表③参照)。本件取引は、証券の保有期間が一週間以内の取引が投資金額の構成比率で半分弱を占める。証券の保有期間が一か月以内の取引になると、投資金額の構成比率で七十数パーセントを占める。証券の保有期間が六か月以内の取引では、投資金額の構成比率で九十数パーセントを占めている。
このように、本件取引は短期売買の比重が極めて高く、頻繁に短期売買が繰り返されていたことが明らかである。
(五) 手数料率
(1) 控訴人の本件取引の平均投資額は、次のとおりである。
イ 平成三年
加重投資額が四億五〇〇〇万円台前後、純投資額が三億一〇〇〇万円台前後。
ロ 平成四年
加重投資額が三億六〇〇〇万円台前後、純投資額が二億一〇〇〇万円台前後。
(2) ところが、被控訴人の本件取引による手数料収入は、平成三年が三五八五万円余であり、平成四年が二一九一万円余である(別紙五参照)。控訴人の加重投資額平均の七パーセント前後、純投資額平均の一〇パーセント強が被控訴人の手数料収入となっており、手数料率は異常な高率である。
2 検討
(一) 過度性の判断対象
証券取引の過度性は、顧客の資産状況、投資目的、投資傾向、投資知識、経験、取引金額、回数、売買回転率、期間別売買分布、手数料率等を総合して判断すべきことがらである。
(二) 本件取引の過度性
(1) 前示のとおり、控訴人は、従業員が二〇〇人弱の株式会社であるが、証券取引を専属に行う社員がいるわけではなく、本件取引は茶屋社長が全てを取り仕切っていた(前示第一の一、第二の二1(一)(2))。
茶屋社長は、証券取引についての知識、経験は豊富であったといえても、複雑な証券取引を短期間に多数回行う時間的余裕や、知識、経験まではなかった。本件取引の売買総額は一〇六億円にも達しており、全額借入金によるものであった(前示第二の二1(一)(1)(2))。
(2) 後示三3のとおり、本件取引の大部分は、茶屋社長の個別具体的な売買注文によるものではなく、被控訴人担当者(A社員、B課長、C課長)の判断によるものであった。茶屋社長は、被控訴人担当者に対し、一般的な話しとして、「損切り」は早めにするようにと話していたことはあるが、短期売買に徹しろなどと言ったことはない(控訴人前代表者茶屋勲本人)。
(3) 本件取引が特に頻繁になされた時期は、平成三年二月一三日(信用取引の開始日)から平成四年九月二八日(新規の信用取引の終了日)までである。平成三年の売買総額は六九億円、平成四年の売買総額は二九億円余にのぼる。控訴人は、その間、一月当たり一八回余の割合で、一回当たり二六〇〇万円余もの高額取引をしていたことになる(前示1(二)(1)(2))。
(4) 本件取引が特に頻繁になされた平成三年二月一三日から平成四年九月二八日までの加重投資残高による年次回転率は、控えめにみても6.8である(前示1(三)(2))。この年次回転率は著しく高率である。
(5) 前示1(四)のとおり、本件取引は短期売買の比重が極めて高く、頻繁に売買が繰り返されていた。前示1(五)のとおり、控訴人の加重投資額平均の七パーセント前後、純投資額平均の一〇パーセント強が被控訴人の手数料収入となっており、手数料率も異常に高い。
(三) まとめ
以上によると、平成三年二月一三日(信用取引の開始日)から平成四年九月二八日(新規信用取引の終了日)にかけての本件取引は、控訴人の資産状況、投資目的、投資傾向、投資知識、経験に照らして過当な頻度、数量の証券取引であり、過度性の要件を充足している。
三 口座支配(取引の主導性)
1 事実の認定
別紙売買目録二、三、別紙四に、証券(控訴人前代表者茶屋勲本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 茶屋社長は、被控訴人京都支店営業課のA社員から熱心な勧誘を受け、遅くとも信用取引を始めた平成三年二月一三日までには、被控訴人京都支店(担当者のA社員)に対し、次の内容で証券取引を委託するようになった。
(1) 証券の売買銘柄、数量、時期等の選択をAの判断に一任する。
(2) Aは、右取引によって、控訴人にできる限り利益が生ずるように努力する。
(二) 被控訴人京都支店の担当者は、A社員(平成三年五月まで)、B課長(平成三年六月から平成四年五月)、C課長(平成四年六月以降)と替わったが、B課長、C課長も、控訴人との一任取引を続けた。
(三) 控訴人の一任取引は、新規の信用取引の最終日である平成四年九月二八日まで続いた。したがって、別紙四の番号33の取引から番号548の取引までは、一任取引期間中の取引である。その間の取引の大部分(少なくとも九割以上)は、茶屋社長からの事前の個別具体的な売買注文によるものではなく、担当者(A社員、B課長、C課長)が独自の判断に基づき証券の銘柄、数量、時期等を選択してされたものである。
2 前示認定の根拠
(一) 超多忙な茶屋社長
前示二1(一)(1)のとおり、超多忙な毎日を過ごしていた茶屋社長には、本件取引のように、多種多用で複雑な証券取引に積極的に関与し、短期取引を何回にもわたって多数行うことができるほどの時間的余裕はなかった。被控訴人担当者が、事前に茶屋社長に個々の証券銘柄を説明し、その個別具体的な承諾を得た上で本件取引の注文を受けていたものとは認められない。
(二) 茶屋社長不在中の取引
(1) 概論
別紙四の番号欄に赤色でマークした取引は、茶屋社長が海外出張していた日を売買約定日とする分である。茶屋社長が同約定日に海外出張中であったことは、茶屋社長のパスポートの出入国の記録(甲一〇二、一〇三)から明らかである。
別紙四の番号欄に青色でマークした取引は、茶屋社長がゴルフ、国内出張その他で会社(控訴人)に出勤しなかった日を売買約定日とする分である。この事実は、証拠(甲七九ないし一〇一、甲一〇六ないし一〇九〔枝番を含む〕、甲一五九ないし一六一〔枝番を含む〕)及び弁論の全趣旨により認められる。
被控訴人の担当者(A社員、B課長、C課長)が、茶屋社長から別紙四の番号欄に赤色、青色でマークした取引について、控訴人(茶屋社長)から事前に個別具体的な売買注文を受けておらず、同取引は、同担当者らの独自の判断によるものであるというべきであって、これにはこのように客観的な裏付証拠がある。
(2) 個別の特徴的な取引
イ 平成三年二月二一日の取引
被控訴人の注文伝票(甲二〇、二一)では、平成三年二月二一日、控訴人からの午前九時三〇分の注文によって、日本板硝子ワラントが一七六二万五〇二〇円で買い付けられ、控訴人からの午前一〇時四四分の注文によって、同ワラントが一七八四万三二〇〇円で売却されたことになっている(別紙四の番号44、45)。
ところが、茶屋社長は、当日は朝から宇治カントリークラブにゴルフに行っており、午前九時一二分からのスタートであった。この事実は、宇治カントリークラブからの回答により明らかである(甲一〇六の1、2)。茶屋社長が買付、売却ともに指示できる筈がないのに、ワラントという高度の判断を要する証券で、かつ売買総額が三五〇〇万円以上もの取引が行われている。
以上により、茶屋社長からの事前の個別具体的な指示に基づき、前示日本板硝子ワラント取引が行われたものとは認められないことが明らかである。
ロ 平成三年三月七日、八日の取引
被控訴人の注文伝票(甲二二、二三)では、控訴人から平成三年三月七日一三時〇三分に注文を受け、住友ベークライトワラントが二二八万八〇五〇円で買い付けられ(別紙四の番号52)、控訴人から翌八日午前九時三一分に注文を受け、それが三〇二万二八七五円で売却されたことになっている(別紙四の番号53)。
ところが、茶屋社長は、前認定のとおり、平成三年三月から一〇日までアメリカに出張中であった。この事実は、茶屋社長のパスポートにより明らかである(甲一〇二)。茶屋社長は、ワラントという高度の判断を要する取引につき、アメリカから被控訴人京都支店に電話をして、同月七日に買注文をし、同月八日に売注文をするなどということは、通常考えられないことである。
以上により、茶屋社長からの事前の個別具体的な指示に基づき、前示住友ベークライトワラント取引が行われたものとは認められない。
ハ 平成三年七月一九日の取引
被控訴人の注文伝票(甲一二二の1、2)では、平成三年七月一九日、控訴人からの午前九時一七分の注文によって、スタンレー電気三万株が二八六九万円余で買い付けられ、控訴人からの午前一〇時三三分の注文によって、サンスター二万株が二二四〇万円で買い付けられたことになっている(別紙四の番号202ないし204)。
ところが、茶屋社長は、当日は朝から信楽カントリー倶楽部にゴルフに行っており、午前九時三六分にはゴルフのプレーをスタートし、午後三時三〇分頃ホールアウトしている。この事実は、信楽カントリー倶楽部からの回答書(甲一〇七の1、2)によって明らかである。茶屋社長は、前示午前九時一七分はプレーの準備中であり、午前一〇時三三分はプレー中であって、被控訴人京都支店に買付注文をすることは、通常考えられないところである。
この点につき、被控訴人は、茶屋社長からは、自動車電話やゴルフ場備え付けの固定電話から売買注文を受けたこともあると主張している。平成三年当時は、携帯電話は一般にはまだ普及していなかった。茶屋社長は、前示午前九時一七分の買注文はともかくとして、午前一〇時三三分の買注文については、自動車電話やゴルフ場備え付けの固定電話により注文をすることなど、特段の事情がない限りできなかった筈である。
それ故、右特段の事情が認められない本件においては、前示スタンレー電気、サンスター取引も、茶屋社長の個別具体的な指示に基づきなされたものと認定し難い。
二 平成三年九月六日から一三日までの取引
茶屋社長は、平成三年九月五日から一五日までアメリカに出張中である。この事実は、茶屋社長のパスポート(甲一〇二)により明らかである。
ところが、茶屋社長のアメリカ出張中に、別紙四の番号235から251までの八銘柄の株取引がされている。そのうちの七銘柄までが信用取引であり、その売買総額は二億四千数百万円に達している。茶屋社長は、信用取引という高度の判断を要する取引につき、アメリカから被控訴人京都支店に電話をして、総額で二億数千万円にも達する株取引の売買注文をすることは、通常考えられないことである。
しかも、明治製菓は、買い注文を出した翌日に売り注文を出して利益をあげており(別紙四の番号236ないし243)、コスモ石油は同日に売りと買いを出して利益をあげている(別紙四の番号250、251)。茶屋社長が海外におりながら、このような取引ができたものとは、まずもって考えられないことである。
ホ 平成四年五月二九日の取引
平成四年五月二九日には、別紙四の番号365ないし374の株取引がされている。当日の株取引は全て売りであり、売り総額が九千数百万円、それによって現出した損失合計は四千数百万円に達している。注文伝票(甲五三ないし五九)には、午前八時五二分、午前八時五六分、午後〇時三〇分、午後一時五二分、午後二時五八分に、いずれも控訴人から右取引の注文があった旨が記載されている。
ところが、茶屋社長は、当日朝からジャパンエースゴルフ場へ行き、午前九時にゴルフのプレーをスタートし、午後二時位にホールアウトして会食をし、午後三時半前頃に終了している。この事実は、ジャパンエースゴルフ倶楽部からの回答(甲一〇九の1ないし3)により明らかである。
茶屋社長が、ゴルフのプレー直前、プレー中、プレー直後に、総額九千数百万円もの取引、しかも四千数百万円もの損失を現出する取引の注文を出すことなどは、およそ考えられないことである。
ヘ 平成四年六月一日の取引
茶屋社長は、平成四年五月三一日から六月七日までカナダに出張している。この事実は、茶屋社長のパスポート(甲一〇三)により明らかである。
ところが、その間の平成四年六月一日に、別紙四の番号375から381までの取引(中国塗料の売却、井関農機の売却)がされている。その売却総額は三五〇〇万円強であり、当日の取引によって現出した損失合計額は二一〇〇万円強に達している。注文伝票(甲一〇四、一〇五)によると、当日の取引については、午前九時一三分、午前一〇時四三分に、控訴人から売却指示がされたことになっている。
茶屋社長は、平成四年六月一日はカナダ出張中であるのに、遠い異国のカナダから、日本時間の午前九時一三分頃、午前一〇時四三分頃被控訴人京都支店に連絡して、三五〇〇万円にのぼる株の売却を指示し、二一〇〇万円もの損を出す取引を行ったとは考えられない。
(三) C課長の会話の録音テープ
C課長と茶屋社長とが平成四年一一月に交わした会話の内容が録音されている。その録音テープと反訳書面が甲第一五号証の一、二である。C課長は、その中で、茶屋社長から、被控訴人京都支店の担当者が一任取引をしていたと指摘されているのに、それにまともな反論もしていない。このように、被控訴人京都支店の担当者は、一任取引をしていたことを事実上認めている。
(四) 被控訴人担当者の弁解
(1) 注文伝票に打刻された受注時刻
イ 被控訴人担当者の陳述
被控訴人担当者(A社員、C課長)は、陳述書(乙二八、三〇)の中で、次のとおり陳述している。
注文伝票の打刻は注文を受けたときにすることになっているが、被控訴人京都支店では、本件取引当時、京都支店から本社市場部に発注したときに打刻したことも多数ある。
ロ 検討
(イ) 証券会社にとって、後日のトラブルを防ぐためにも、顧客からの受注日時は極めて重要である。それ故、被控訴人の営業社員必携(甲一五六)にも、次のとおり規定されている。
a 受注日時は、タイムスタンプにより受注時直ちに注文伝票に打刻しなければならない。
b ただし、立会時間後外交先にて受注し、帰社後注文伝票を起票する場合は、注文伝票に外交先での受注日時を記入しなければならない。
(ロ) 被控訴人京都支店では、本件取引当時、顧客から証券取引を指示された時刻を注文伝票に打刻せず、京都支店から本社市場部に発注した時刻を打刻していたなどという弁解はたやすく信用することができない。
(ハ) 真実は次のとおりであったと推認できる。
a 被控訴人担当者は、本件取引について、事前に茶屋社長から個別具体的な売買注文を受けておらず、同担当者の判断による取引であった。しかし、被控訴人内の取決めでは、顧客から売買の注文を受けた時刻を注文伝票に打刻しなければならないことになっていた。
b そこで、被控訴人担当者は、事前に茶屋社長から個別具体的な売買注文など受けていないのに受けたことにして、同担当者が具体的な銘柄についての取引を思いついた日時を注文伝票に打刻した。
(2) 茶屋社長からの受注方法
イ 被控訴人担当者の陳述
被控訴人担当者(A社員、B課長、C課長)は、次のとおり陳述している(乙二八ないし三〇)。
(イ) 本件取引は、すべて茶屋社長から事前に個別具体的な注文を受けて行ったものである。
(ロ) 取引の前日に茶屋社長から注文を受けた取引もあるし、茶屋社長から、移動中の自動車電話、ゴルフ場からの電話、海外出張中の国際電話、国内出張先からの電話により、注文を受けた取引もある。
ロ 検討
前示のとおり、本件取引は、百二十数銘柄にも及ぶ証券取引であり、その内容も株式の現物取引、同信用取引、転換社債取引、投資信託取引、ワラント取引等の多種多様な取引である。その取引金額も一口当たり二千六百万円余もの高額取引である(前示二1(一)(1)、二1(二)(2)ニ)。
控訴人の茶屋社長が、このような多種多用で、高額かつ複雑な証券取引を、海外、国内出張中やゴルフ中に、被控訴人担当者に電話で何口も注文することは事実上不可能である。取引の前日に茶屋社長から注文を受けた取引もあるとの弁解については、注文伝票の打刻日時と矛盾する。
海外出張中であれば、日本の証券市場に関する情報も限られたものになるのに、多数回にわたり多種多様で多額の証券取引の注文などできるものではない。ゴルフ場では必ず仲間がいるから、他人の目も気になる筈である。ゴルフ場から頻繁に株の売買注文などできるものではない。
被控訴人担当者の前示イの陳述は信用できない。
(3) 平成四年六月一日の取引
イ C課長は、平成四年五月三〇日(土曜日)午後五時頃、控訴人城陽工場を訪問し、茶屋社長から、同年六月一日(月曜日)に中国塗料株(信用取引)及び井関農機株(現物取引)を売却する(別紙四の番号375ないし381の取引を行う)よう指示された、と陳述する(乙三〇)。
ロ しかし、茶屋社長は、平成四年五月三〇日(土曜日)は、島津製作所外注業者の親睦会のゴルフコンペに参加し、瀬田ゴルフコース(大津市に所在)でゴルフをしている。当日は、午前一〇時六分にゴルフのプレーをスタートし、午後四時三〇分頃終了している。その後、午後五時頃からの親睦会に参加し、午後六時三〇分頃解散している(甲一六〇及び一六一〔枝番を含む〕)。
以上については、島津製作所からのファックス(甲一六〇の2、3)や、瀬田ゴルフコースからの回答書(甲一六一の1ないし5)という客観的な裏付証拠があり、動かし難い事実である。
ハ C課長の前示イの陳述も信用できない。
3 まとめ
以上によると、次の事実が認められる。
(一) 本件取引中、遅くとも平成三年二月一三日の取引から平成四年九月二八日までの取引(別紙四の番号33から548までの取引)の大部分は、被控訴人京都支店の担当者(A社員、B課長、C課長)による一任取引である。
(二) すなわち、右取引の大部分は、控訴人(茶屋社長)の事前の個別具体的な注文による取引ではない。被控訴人担当者が、事前に、控訴人(茶屋社長)から売買銘柄、数量、時期等の選択を担当者の判断に一任する旨の同意を取り付け、それに基づき、担当者の方で主体的に選択して行った取引が大部分である。
(三) したがって、被控訴人京都支店の担当者は、控訴人の取引口座をコントロールして支配を及ぼし、平成三年二月一三日から平成四年九月二八日までの取引(別紙四の番号33の取引から番号548までの取引)を主導的に行っていたこと、すなわち、被控訴人による「口座支配」の事実が認められる。
四 悪意性(欺罔の意図)
1 被控訴人の利益、控訴人の損失
(一) 被控訴人の利益
被控訴人が本件取引(別紙四の番号3から567)により得た利益は、手数料収入六一八八万六二〇八円(別紙四の手数料欄の末尾、別紙五手数料額欄の合計欄参照)に、ワラント売買益が加算される。すなわち、証券会社は、ワラント取引については、顧客から受領する手数料により利益を得るのではなく、証券会社と顧客との間の相対取引により売買差益を稼ぐのである。
それ故、前示手数料収入には、被控訴人が控訴人との間のワラント取引によりあげた売買差益が含まれていない。証券会社がワラント取引によりあげる売買差益は、株の手数料収入よりも高率である。本件取引中のワラント取引は、一五銘柄、売買回数三四回、買付総額一億七〇〇〇万円余にのぼっており、被控訴人がワラント取引により得た売買差益も相当額に達している。
(二) 控訴人の損失
(1) 控訴人が本件取引(別紙四の番号3から567)により被った損失は、次のイ、ロの合計二億五六五〇万三八一九円である(別紙四の運用利益累計欄の末尾、別紙五運用損益額欄の合計欄参照)。
イ 売買差損 一億五一〇〇万二八五六円。
ロ 経費合計 一億〇五五〇万〇九六三円。
なお、経費の内容は、手数料(六一八八万円余)、信用取引の金利(二八六二万円余)、有価証券取引税(一二八九万円余)、消費税(一八五万円余)、その他(名義書換料、管理費)である。
(2) それに加えて、控訴人は、本件取引に必要な投資資金(現物取引の買付資金、信用取引に必要な保証金)を全額借入金によっているので(前示二1(一)(2))、その金利負担も相当額にのぼっている。
2 悪意性が直接問題となる個々の取引
(一) CBオープンの売買
(1) 事実の認定
証拠(乙二、証人A)によると、控訴人(担当者のA社員)は、次のイないしハのとおり、三回にわたり第二CBオープンの買付、売却を繰り返している。第二CBオープンは、最初の買付の段階で、買付価額の二パーセントの手数料が必要である。
イ 一回目の売買
(イ) 控訴人は、平成三年二月二五日、第二CBオープン一万一一〇〇口を単価八八六三円で買い付け、手数料、消費税を含めた一億〇〇四〇万五九一三円を支払った(別紙売買目録二のNo.3の二、三段目、別紙四の番号46、47)。
(ロ) 控訴人は、平成三年三月二六日、第二CBオープン一万一一〇〇口を単価88.62パーセントで売却し、九八三六万八二〇〇円を受領した(別紙売買目録二のNo.3の二、三段目、別紙四の番号74、75)。
(ハ) この売買により、控訴人には二〇三万七七一三円の損失が発生し、被控訴人は一九六万七五八六円の手数料収入を得ている。
ロ 二回目の売買
(イ) 控訴人は、平成三年三月二九日、第二CBオープン一万一〇〇〇口を単価八八九一円で買い付け、手数料、消費税を含めた九九八一万五七〇〇円を支払った(別紙売買目録二のNo.3の一〇、一一段目、別紙四の番号79、81)。
(ロ) 控訴人は、平成三年四月三〇日、第二CBオープン一万一〇〇〇口を単価八七四四円で売却し、九六一八万四〇〇〇円を受領した(別紙売買目録二のNo.3の一〇、一一段目、別紙四の番号363、364〔別紙四の約定日は一年間違っている〕)。
(ハ) この売買により、控訴人には三六三万一七〇〇円の損失が発生し、被控訴人は一九五万六〇二〇円の手数料収入を得ている。
ハ 三回目の売買
(イ) 控訴人は、平成三年四月二四日、第二CBオープン一万一〇〇〇口を単価八八〇七円で買い付け、手数料、消費税を含めた九八八七万二六六六円を支払った(別紙売買目録二のNo.4の九、一〇段目、別紙四の番号361、362〔別紙四の約定日も一年間違っている。〕)。
(ロ) 控訴人は、平成三年五月二九日、第二CBオープン一万一〇〇〇口を単価八六九四円で売却し、九五六三万四〇〇〇円を受領した(別紙売買目録二のNo.4の九、一〇段目、別紙四の番号161、162)。
(ハ) この売買により、控訴人には三二三万八六六六円の損失が発生し、被控訴人は一九三万七五四〇円の手数料収入を得ている。
(2) 検討
控訴人(担当者のA社員)は、約一か月毎に連続して三回にわたり、一回当たり一億円弱の第二CBオープンの売買を繰り返している。買付時に二パーセントの手数料が必要なので、被控訴人は一回当たり二〇〇万円弱、三回で六〇〇万円弱の手数料収入をあげている。
控訴人は、右三回の売買のいずれについても、第二CBオープンを買い付けて約一か月後に、買付単価よりも安い単価でこれを売却している。そのため、控訴人の損失は、手数料、消費税、値下がり損で、総額八九〇万八〇七九円にも達している。
そもそも、第二CBオープンは、買付時に買付価額の二パーセントの手数料が必要であるから、買付単価よりも二パーセントを超える価格上昇がないと、顧客は利益をあげることができない商品である。ところが、控訴人(担当者のA社員)は、約一か月毎に連続して三回、単価が下がり続けているのに、CBオープンの売買を繰り返しているのである。
特に、控訴人(担当者のA社員)は、一回目のCBオープンを売却した日(平成三年三月二六日)の三日後(同月二九日)に、二回目のCBオープンを買い付けている。さらに、三回目のCBオープンを買い付けた日(平成三年四月二四日)の六日後(平成三年四月三〇日)に、二回目のCBオープンを売却している。CBオープン一億円を一回買い付ければ、二〇〇万円の手数料が必要となるのに、控訴人(担当者のA社員)が、このように無益な取引を繰り返す理由は見当たらない。
これは、顧客(控訴人)の利益を無視した証券会社(被控訴人)の手数料稼ぎというほかない。
(二) ファナック株の信用取引
(1) 事実の認定
控訴人(担当者のA社員)は、信用取引で、平成三年四月五日ファナック一万株を単価五四二〇円で買い付け、同月一五日ファナック五〇〇〇株を単価五五二〇円で売却し、同月一七日ファナック五〇〇〇株を単価五七〇〇円で売却している(別紙売買目録三のNo.2の二、四段目、別紙四の番号90、91、104、番号112)。
さらに、控訴人(担当者のA社員)は、信用取引で、平成三年四月一六日ファナック五〇〇〇株を単価五五二〇円、五五四〇円で買い付け、同月一八日ファナック五〇〇〇株を単価五八四〇円で売却している(別紙売買目録三のNo.2の六、七段目、別紙四の番号108、109)。
(2) 検討
控訴人(担当者のA社員)は、平成三年四月一五日、ファナック五〇〇〇株を単価五五二〇円で一旦売却し、翌一六日、再度ファナック五〇〇〇株を単価五五二〇円、五五四〇円で買戻している。
控訴人(担当者のA社員)が平成三年四月一五日にファナック五〇〇〇株を売却し、翌一六日にファナック五〇〇〇株を買戻したのは全く無駄である。このような無駄な取引をすると、被控訴人は手数料収入を二重にあげることができ、控訴人は手数料を二重に支払わなければならなくなる。
何故このように無駄な取引がされたのかにつき、合理的根拠を見出し難い。本件取引の大部分は被控訴人担当者の一任取引によるものであるから、右ファナック五〇〇〇株の売りと買いも、同担当者の一任取引による手数料稼ぎを目的としたものとする外に考えられず、そのように推認すべきである。
(三) 三井造船株の信用取引
(1) 事実の認定
控訴人(担当者のA社員)は、信用取引で、平成三年二月一九日三井造船株一〇万株を単価六五六円で買い付け、直ちに同日同株を単価六四八円で売却し、一六四万三一八六円の損失を出している。同損失中の六一万三四〇〇円は、控訴人が被控訴人に支払った手数料である(別紙売買目録三のNo.1の二、三段目、別紙四の番号38、39)。
(2) 検討
控訴人(担当者のA社員)は、平成三年二月一九日三井造船株一〇万株を高値で買い付け、直ちに即日安値で売却している。このような不可解な取引により、控訴人は瞬時の間に一六四万円余もの損失を出したが、被控訴人は六一万円余の手数料収入をあげている。
何故このような不可解な取引がなされたのであろうか。本件取引の大部分は被控訴人担当者の一任取引によるものであるから、右三井造船株一〇万株の買いと売りも、同担当者の一任取引による手数料稼ぎを目的としたものとする外に考えられず、そのように推認すべきである。
(四) 昭和アルミニウム株の信用取引
(1) 事実の認定
控訴人(担当者のA社員)は、信用取引で、平成三年四月九日昭和アルミニウム五万株を単価一〇四〇円で買い付け、翌一〇日同株を同じ単価で売却し、七八万〇四七二円の損失を出している。同損失中の五五万四〇〇〇円は、控訴人が被控訴人に支払った手数料である(別紙売買目録三のNo.1の一三、一四段目、別紙四の番号97、99、101)。
(2) 検討
控訴人(担当者のA社員)は、平成三年四月九日昭和アルミニウム五万株を一〇四〇円で買い付け、翌日同株を同単価で売却している。このような無駄な取引により、控訴人は七八万円余もの損失を出したが、被控訴人は五五万円余の手数料収入をあげている。
何故このような無駄な取引がなされたのであろうか。本件取引の大部分は被控訴人担当者の一任取引によるものであるから、右昭和アルミニウム株五万株の買いと売りも、同担当者の一任取引による手数料稼ぎを目的としたものとする外に考えられず、そのように推認すべきである。
3 短期売買による手数料稼ぎと損失証券の放置
(一) 前示二1(四)のとおり、本件取引の期間別売買分布は、別紙六記載のとおりである。別紙六によると、次の事実が認められる。
(1) 本件取引は、一週間内売買が投資金額の五割弱、一か月内売買が投資金額の七割以上、三か月内売買が投資金額の八割以上、六か月内売買が投資金額の九割以上を占めている。
(2) 本件取引中、即日売買、翌日売買、週間内売買、一か月内売買までは、支払経費を考慮する前の売買損益段階でいずれも利益となっている。ところが、三か月内売買、六か月内売買、一年内売買、長期売買は、いずれも支払経費を考慮する前の売買損益段階で既に大幅な損失となっている。
(3) 控訴人(担当者のA社員、B課長、C課長)は、目先の利益が僅かでも出ているものは直ちに売却して利食いし、目先で含み損が発生しているものは放置して、その損失の現出を故意に避けている。
(4) 控訴人(担当者のA社員、B課長、C課長)は、短期売買で僅かに利益をあげてはいるが、その利益の大部分を被控訴人に支払う手数料で食潰している。
(二) 控訴人(茶屋社長)は、被控訴人京都支店の担当者(A社員、B課長、C課長)に対し、一般的な話しとして、屡々、「損切り」は早めにするようにと話していたことはあるが、短期売買に徹しろなどと言ったことはない(控訴人前代表者茶屋勲本人)。
ところが、前示担当者らは、目先の利益が僅かでも出ているものは直ちに売却して利食いし、目先で含み損が発生しているものはことさらに放置して、その損失の現出を避けている。
(三) これは、被控訴人担当者が、目先の利益が僅かでも出ているものは、直ちに売却して手数料稼ぎをし、損失が発生している証券については長期間放置して、含み損が表面化するのをできるだけ遅らせ、控訴人(茶屋社長)からの批判をかわす目的からと推認できる。
4 C課長の会話の録音テープ
C課長と茶屋社長とが平成四年一一月に交わした会話の内容が録音されている。その録音テープと反訳書面が甲第一五号証の一、二である。C課長は、その中で、茶屋社長から、被控訴人京都支店の担当者が手数料稼ぎをしていると批判されても反論できず、その事実を暗に認めている。
5 まとめ
次の(一)ないし(六)の事実を総合すると、被控訴人担当者(A社員、B課長、C課長)は、控訴人(茶屋社長)から証券取引の一任を受けていることを濫用し、控訴人の利益を害してでも、被控訴人の手数料稼ぎを優先して、本件取引(ただし、平成三年二月一三日から平成四年九月二八日までの取引)を行ったことが認められる。
(一) 前示二2(三)(過度性の要件充足)。
(二) 前示三3(三)(口座支配の要件充足)。
(三) 前示四1(本件取引による被控訴人の多額の手数料収入、控訴人の莫大な損失の発生)。
(四) 前示四2(手数料稼ぎの具体的事例)。
(五) 前示四3(短期売買による手数料稼ぎ、損失が発生している証券の背信的な放置)。
(六) 前示四4(C課長との会話の録音テープの内容)
五 小括
1 以上の二ないし四のとおり、本件取引中の平成三年二月一三日から平成四年九月二八日までの取引(別紙四の番号33から548までの取引)は、過当取引(チャーニング)の三要件、すなわち、取引の過度性、口座支配(取引の主導性)、悪意性(欺罔の意図)のいずれも充足している。
2 したがって、前示期間中の取引については、被控訴人が、控訴人の取引口座に対して支配を及ぼし、控訴人の信頼を濫用し、控訴人の利益を犠牲にしてでも手数料稼ぎ等自己の利益の実現を図るために、控訴人の資産状況、投資目的、投資傾向、投資知識、経験に照らして過当な頻度、数量の証券取引の一任を勧誘したものである。これは、被控訴人の控訴人に対する誠実義務に違反する詐欺的、背任的行為として、私法上も違法と評価するのが相当である。
第三 損害額、過失相殺の検討
一 損害額
1 前示第二の五によると、被控訴人は控訴人に対し、控訴人が本件取引中の平成三年二月一三日から平成四年九月二八日までの取引により被った損害について、債務不履行(受任者としての善管注意義務違反)、不法行為(使用者責任)による損害賠償責任を免れない。
2 そして、別紙二ないし四によると、控訴人が平成四年九月二九日以降も被控訴人京都支店で行った取引は、次の取引であることが認められる。
(一) 平成三年二月一三日から平成四年九月二八日までに行った信用取引についての清算取引(反対売買取引)。
(二) 平成二年一月二四日に買い付けたシャープの売却取引(別紙売買目録二のNo.1の九ないし一一段目、現物取引)。
3 したがって、控訴人が本件取引中の平成三年二月一三日から平成四年九月二八日までの取引(違法取引)により被った損失額を算定するに当たっては、前示2(一)記載の信用取引の清算取引(反対売買取引)の結果も斟酌することになる。
4 そうすると、控訴人が前示違法取引期間中に被った損失額は、次のとおり二億三一六五万一〇七〇円となる。
(一) 控訴人が本件取引により被った損失額は、二億五六五〇万三八一九円である(別紙四の運用利益累計欄の末尾、別紙六の運用損益額欄の合計欄参照)。
(二) 前示違法取引期間中の取引とは認められない現物取引(別紙売買目録二のNo.1全部の取引、同No.2の一ないし一一段目の取引)による損失額は、二四八五万二七四九円である。
(三) 本件取引中の違法取引期間中に被った損失額は、右(一)の損失額から(二)の損失額を控除した二億三一六五万一〇七〇円である。
5 前示のとおり、前示違法取引期間中の証券取引の少なくとも九割以上は、被控訴人京都支店の担当者(A社員、B課長、C課長)が、控訴人(茶屋社長)から事前に個別具体的な売買注文、売買の了解を得ずに、その独自の判断に基づき行った一任取引によるものである(前示第二の三1)。
したがって、控訴人は、被控訴人京都支店の担当者の違法な一任取引(過当取引―チャーニング)により被った損害額は、前示4の違法取引期間中に被った損失額二億三一六五万一〇七〇円の九割である二億〇八四八万五九六三円を上回るものと推認できる。
二 過失相殺
1 控訴人が本件取引中の違法取引により損害を被ったことについては、控訴人にも次のような過失があることが認められる。
(一) 控訴人が被控訴人担当者に一任取引を委ねた。
(二) 控訴人は、被控訴人から、本件取引が成立する毎に売買取引報告書を郵送されており、本件違法取引の内容を確認できた(弁論の全趣旨)。
(三) 控訴人は、被控訴人から、定期的に取引明細、預り金残高、預かり証券残高の明細の報告を受け、間違いがない旨の回答までしている(乙八ないし二六)。
2 このように、被控訴人担当者による本件違法取引(過当取引〔チャーニング〕)について、控訴人にも右1(一)(二)(三)のような過失がある。しかし、当事者双方の過失内容に照らせば、控訴人側の過失割合は多く見積もっても六割を超えることはなく、被控訴人側の過失割合は四割を下回らないことが明らかである。
3 したがって、被控訴人は、控訴人に対し、本件違法取引により被った損害額二億〇八四八万五九六三円(前示一5)の四割である八三三九万四三八五円の損害賠償金支払義務は免れない。そうすると、控訴人の六七〇〇万円の本件損害賠償請求はすべて理由がある。
ちなみに、被控訴人は、本件取引により、手数料収入六一八八万六二〇八円にプラスしてワラント売買益を得ている。したがって、被控訴人が本訴で六七〇〇万円程度の損害賠償金の支払を命じられても、被控訴人にとっては何ら過酷な結果とはならない。
第四 結論
一 以上によると、被控訴人は控訴人に対し、債務不履行ないし不法行為による損害賠償金六七〇〇万円、及びこれに対する平成六年一二月一日(訴状送達の日の翌日)から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
二 したがって、控訴人の本訴請求はすべて理由があるのでこれを認容すべきである。よって、本訴請求をすべて棄却した原判決を取り消し、本訴請求を認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官吉川義春 裁判官紙浦健二 裁判官播磨俊和)
別紙売買目録二〜三<省略>
別紙四〜七<省略>